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Channel: YU@Kの不定期村
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フィクションの嘘と70億通りのリアリティラインに今日もまた騙されたい

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こんにちは、YU@K(@slinky_dog_s11)です。

火星サバイバル映画「オデッセイ」が日本でも好成績ということで、この映画が心底気に入った身としては喜ばしく思う今日この頃。と、同時に、「この映画って本当に“リアル”なの?」という議論や指摘は後を絶たない。火星の大気を考慮するとそもそもあんな感じの遭難事故は起こらないのでは… という類の科学的な指摘を挙げているブログ記事等も多く、私のようなクソ文系人間にはその指摘内容がチンプンカンプンだったりする。だから、それらの指摘が正しいか否かは私にはさっぱり分からないのだけど、これに関連して、つい「映画の嘘とリアリティライン」について考え込んでしまう。


【過去記事】
邦題の意味“長期の放浪”は映画「オデッセイ」の寓話性を惹き立たせ嘘を彩る


例えば誰もが知っている映画として「ハリー・ポッター」を挙げたとして、あの映画が「リアルか」「リアルでないか」という質問をされたら、あなたはどう答えるだろうか。そもそも原作小説というステップがあるのだけどそれは一旦置いておいて、私はあの映画ハリポタの世界は結構「リアル」であると感じている。「リアル」というと頭をかすめるのは「現実味」の三文字で、じゃああの煌びやかな魔法世界が現実としてあるかというと、そりゃあ、「無い」と答えるしかない。このふたつの答えは、決して二者択一ではないのだ。




リアリティを感じるときに、その「リアル」が現実に起き得るか否かはあまり関係ない。その作品中で、その「リアル」が起き得ることを説得させれば良いのである。例えば、推理小説の最後に何の説明も無く「密室殺人は霧状に変化した吸血鬼の仕業でした」では読者を説得することはできない。しかし、その推理小説中に吸血鬼がいるような話を構築できれば読者を説得できるだろう。共に、荒唐無稽な推理小説ではあるが前者はリアリティが無いと断じられるに違いない。

作品にリアリティを持たせるために上手に嘘とつき合う(最終防衛ライン3)



こちらのブログ記事に書かれているように、私にとってのあのハリポタの魔法世界は、とても「説得力」があるのだ。魔法省という政府機関があり、魔法族とマグル(人間)が折り合いをつけて生活するためのエージェントが常に世界を飛び回っている。未成年は学校外で魔法を使うと罰せられるが、それはマグルに対し魔法界の存在をしっかり隠蔽するためのルールだし、もっと言うと人間界のお偉いさんと魔法界のお偉いさんは互いの世界を認知した上で秘密裏に結託している。マグルの血を毛嫌う差別意識があったり、逆にマグルの文化をオタク的に愛する魔法使いがいたりと、つい「実はひた隠しにされているだけで本当に魔法使いの世界があるのではないか」という妄想をしてしまう。

この「説得力」はディティールの細かさや煮詰められた設定によるものだが、これらを総じて「フィクションのリアル」、つまりは「映画の嘘」と捉えることができる。





だから、私は「ハリー・ポッター」という映画シリーズは「嘘が上手い」と感じているし、それこそが「リアル」だと考えている。一歩引いて考えれば映画なんてドキュメンタリー系を除きどれも嘘八百な訳で、その嘘の中にどれだけリアルを持ち込めるか、つまり、嘘の説得力をどこまで追求できるかという点は、映画に限らずフィクション全てと向き合う際に常に頭のどこかに持っている定規だ。


※※※


映画を離れてみると、例えば週刊少年ジャンプで連載されている「ニセコイ」というラブコメ漫画がある。

ギャングとヤクザの娘と息子が組織抗争を避けるために偽りのカップルを演じるという筋書きだが、ギャグ満載のラブコメとはいえ、作中で「惚れ薬」が登場した際に私はつい眉間にシワが寄ってしまった。そりゃあ確かに、ツッコミがてら殴って どーん と飛んでいったり、荒唐無稽なプロの仕事人が出てきたりするのだけど、それらも併せて「この作品はリアリティラインがブレブレ」という感想を抱いている。どこまでが本当なのか、どこまでが嘘なのか、“どのくらいのリアリティラインで読めばいいのか”が、すこぶる不親切に思えてしまうのだ。(そしてどう考えても千棘より小野寺最高なのに最近やはり千棘ルート確定すぎて辛いとかキムチ事変の方が問題とか色々他にも言いたいことはあるけど…!)





ただ、「そういう漫画」として「ニセコイ」を読んでいる人も大勢いるだろうし、「こういうギャグラブコメ作品に対しリアルが云々ガタガタ抜かすな」と思った人も少なくはないだろう。そういったブレブレである種ごった煮な要素こそが“ニセコイリアル”なのかもしれないし、私が単にその境地に達していないだけの話かもしれない。そういえばラブコメ漫画は胸を張れるほどに数を読んでいないので、サンプル数が少ない故の未成熟な目による判断という可能性だってある。


※※※


つまりは「リアリティライン」というのは人によって大きく異なるのではないか …という流れでまた映画に戻るが、昨年公開され話題になった作品に「セッション」というものがある。

ミスター恫喝とでも言うべき強烈な指導者と、手から血を流しドラムを叩く主人公。狂気の先に待つものとは… という作品なのだが、この作品の音楽描写について一種の「議論」が巻き起こったのは記憶に新しい。私は20年ほど音楽(それも打楽器)をやっているが、その経験を踏まえた上でこの映画が「音楽のリアル」を追求していると受け取ったし、逆に経験者やプロだからこそ、この映画は「音楽のリアルではない」と斬った人もいる。どちらが正しいかという話ではないし、私の素人に毛が生えた程度の音楽経験値がプロのそれと肩を並べられるとも到底思っていない。が、「セッションが音楽(業界)的にリアルか否か」というジャッジは、程度の差こそあれ「音楽をやった人」でも意見が分かれる、ということを言いたいのだ。





【過去記事】
なぜ「セッション」のラスト9分19秒は素晴らしいのか? ~血とビートの殴り合い、恫喝の向こうの涙


ということで、「オデッセイ」の科学描写がリアルだったかと問われれば、私のような科学ナニソレ人間にはこの上なく「リアル」で「説得力」があったし、そちらに詳しい方からすれば「非リアル」で「説得力に欠ける」物語だったのかもしれない。受け手によって線引きが変わってくるというと先日書いたTwitterネタバレ議論と同じ帰結にもなってくるのだけど、全世界で70億人いれば70億通りの「リアリティライン」があるとすれば、じゃあ「ハリー・ポッター」「ニセコイ」「セッション」「オデッセイ」は、各々果たしてどれだけの人のリアリティラインに説得力を持って“クリア”とすることができたのだろうか。

まあ、「特定の文化(知識)に詳しい人はリアリティラインが厳しくなる」というのも、一概に言えた話ではない。ロボット工学を学ぶ人がそろって「パシフィック・リム」を斬る訳でもないだろう。「フィクション」と「現実」を切り離した目を用いて、その観点の中で「リアルなのか」を論じるか否かというのは、これまた最大70億通りの話である。そういう意味で「オデッセイ」の科学考証に指摘が挙がるのは、この映画が「フィクション」と「現実」を無意識に結びつけてしまう程に(広義の)“現実味”を持っていた、とも言えてしまうだろう。





ジム・キャリー主演の「トゥルーマン・ショー」という映画がある。主人公の人生は広大なセットの中で作られたリアリティ番組であり、周囲の人間は妻でさえも仕掛け人で、生まれ故郷は全部が作りもの。そんな現実を知った主人公が箱庭から外に踏み出すまでを描いた、取りようによってはこの上なく毒と風刺の効いた作品だ。

この映画の中盤、死んだはずの主人公の父親(に扮する仕掛け人)がセットに忍び込み主人公と対面してしまうアクシデントが発生する。これを機に主人公は「世界そのもの」を疑い始める流れになるのだが、一連の危機に対し名物プロデューサーは「父親は実は記憶喪失で生きていた」という“設定”を持ち込み、彼を“復帰”させることでドラマを成立させようとする。

この父と息子の再会シーンで、隠し撮りのカメラが抱き合う彼らを捉えながら、“いかにも”な音楽がリアルタイムで演奏され、全世界の放送を見守る人たちは涙を流す。この上なく「作りものの再会」、つまりは史上最大の「嘘」だと皆が分かっていながら、それでも(作中の)観ている人は感動するし、なぜか(作外・つまり我々)観ている人もジーンときたりする。それはジム・キャリー演じるトゥルーマンという主人公が振りまく「キャラクターとしてのリアル(存在感)」あってこそ成立する図式だし、これが成り立って“しまう”ことこそがこの映画の“毒”そのものなのだ。

今日もまた、映画を観て漫画を読んでドラマを観ながら、「“私にとっての上手な嘘”にしっかり騙して欲しい」と、ワガママなまでにそれを作り手に求めてしまうのである。


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