こんにちは、結騎 了(@slinky_dog_s11)です。
私も幼い頃に沢山読んだ児童書の生ける伝説、『かいけつゾロリ』シリーズ。満を持してのアニメ化は好評で延長&映画化もされ、原作児童書は今もなお年2冊ペースで発行を続けているという化け物コンテンツだ。悪事を企むも結局“いいヤツ”になってしまうゾロリと、その手下であるイシシとノシシのイノシシ、計3匹が織り成す珍道中は、この記事を書いている現在で60冊を記録している。私も幼い頃から何度も読んできた、大好きなシリーズだ。
そんな天下のゾロリシリーズだが、私はかねてからこのシリーズに抱いている思い、というか、疑惑(?)のようなものがある。それは、「原作者・原ゆたか先生は特撮オタクなのではないか」というものだ。まあ、「特撮オタク」と銘打つというより、「特撮映画を愛好されているのではないか」という趣旨である。というのも、このゾロリシリーズ、様々な特撮映画のオマージュや引用のようなものが見え隠れしているのだ。
▲原ゆたか先生。熊本県出身。
まず分かりやすいところでいくと、1992年に発行されたシリーズ第10作『かいけつゾロリの大かいじゅう』。宝くじに当たったゾロリが街中に「おかしのしろ(ゾロリじょう)」を建てるが、突如現れた「甘いものが大好きな大かいじゅう」がそのお城に向かって進撃してくる、というお話だ。
面白いのはこの「大かいじゅう」が出現した経緯で、作中のニュースキャスターと解説者の説明によると、『地下深くに眠っていた、5万年前に絶滅したと言われるトカゲの卵が、ゴミのヘドロによって温められ孵ってしまった。更には、まだ子供だが、公害の影響で巨大化してしまった』というのだ。…なんという怪獣映画ライクな設定!「絶滅したとされるトカゲ」という表現は、言わずもがな『ゴジラ(1954)』における「ジュラ紀の生物」という作中考察に近いものがあり、もっと言うと『原子怪獣現わる』のリドサウルスも北極で冷凍保存されていた太古の肉食恐竜とされている。公害によって目覚めて巨大化するという流れについても、「水爆実験・核実験・環境汚染等による怪獣出現(とどのつまり、人類へのしっぺ返し)」はこの手の映画の王道展開と言えるだろう。
この「大かいじゅう」は「ゾロリじょう」に向かって街を破壊し続けるが、物語の後半、怪獣がゾロリ城を目的とした本当の理由が明かされる。それは、ゾロリが「みんなをこわがらせるため」に城を怪獣の形に設計しており、生まれたばかりの大怪獣はそれが自分のママだと勘違いして近づいてきたというのだ。大怪獣は、ママだと信じたゾロリ城を力いっぱい抱きしめ、城は全壊してしまう。
「怪獣の親子」というトピックも、これまた怪獣映画としては王道の展開である。ゴジラとミニラ、ゴジラとリトルゴジラ、ゴジラとゴジラジュニア等々、怪獣王ゴジラのシリーズにおいても、この関係性は欠かせないものになっている(ゴジラの性別や実子かどうかとかゴジラザウルスだとか、という話は長くなるので割愛。あくまで構図としての「怪獣の親子」というニュアンスで)。他にも、子供を取り戻すためにロンドンに上陸するイギリスの怪獣映画『怪獣ゴルゴ』、それを受けての『大巨獣ガッパ』、『モスラ(1996)』でも怪獣親子の関係性が描かれている。ゾロリの「大かいじゅう」がこれらの作品を下敷きにしているかは不明だが、筋としては非常に近しいものを感じてしまうのだ。
また、ゾロリシリーズ第7作目『かいけつゾロリの大きょうりゅう』も、怪獣映画の香りを覚える一作になっている。あらすじを簡単に説明すると、見世物として捕獲されてきた恐竜の子供を観覧したゾロリが、自分はそれより大きいのを捕まえてくると豪語し恐竜がいる島に乗り込むも、そこにいた大きな恐竜は先に捕まえられた恐竜の母親であることを知り、同情したゾロリはママ恐竜と協力して子恐竜を奪還しに行く、というものだ。前述の『大かいじゅう』も含め、ゾロリが「ママ」にめっぽう弱いことは、シリーズ既読者にはお馴染みの要素だろう。
この場合の「恐竜の親子」はそのまま「怪獣の親子」として読み取ることができるが、別のポイントとして目を惹くのは、「子供の恐竜が見世物にされていた」という導入部分である。「怪獣を見世物にする(それによってしっぺ返しを受ける)」という物語は、これまた怪獣映画として王道展開であり、かの『キングコング』をはじめ、『モスラ(1961)』の小美人、『怪獣ゴルゴ』、『大巨獣ガッパ』、最近でいうと『ウルトラマンX』では「怪獣を利用して村興しを計画する」というプロットが披露されたりもしている。人智を超えた生物を利用する浅ましい人類は、この分野においては後を絶たない。
▲『ウルトラマンX』第10話「怪獣は動かない」より、不動怪獣ホオリンガ。
ちなみに余談ではあるが、この「恐竜の親子」は物語のラストで島に仲良く帰っていくが、後の『大かいじゅう』にて城を全壊させママを想って泣く怪獣を、ゾロリはママ恐竜に引き合わせ、あろうことか養子にしてしまっている。過去のキャラクターが頻繁に再登場するのも、本シリーズの魅力である。
▲きょうりゅう一家はアニメ劇場版にも登場。
また、そもそものシリーズ第1作『かいけつゾロリのドラゴンたいじ』にも、作者の特撮好きを思わせるページがある。それは、表紙にもなっている赤いドラゴンの解剖図だ。このドラゴン、実はゾロリがマッチポンプによりお姫様を手に入れようとして作った偽物であり、イシシとノシシがドラゴンの両足に搭乗し操演することで動き・火を吐くという、なんとも特撮マインドをくすぐる一品なのだ。この“中身”を解説する見開きページは完全に「怪獣図鑑」的な解剖図っぽく描かれており、透過した体の一部でゾロリの設計が見えるというものになっている。私も幼い頃にウルトラ怪獣の解剖図を飽きるほど読んだものだ…。
▲みんな大好き、怪獣の解剖図。
そして、「原ゆたか先生特撮オタク説」の中でも私が極め付けだと思っているのが、シリーズ第26作『かいけつゾロリ ちきゅうさいごの日』である。この作品は、「巨大隕石が地球に迫っている!このままでは地球は終わりだ!しかしゾロリたちは諦めない!“おなら”で隕石を押し返すぞ!」という(なんともゾロリらしい)物語で、品種改良されたおならの出やすい芋を食べたおならマイスターたちが、おなら増幅器を使って隕石を宇宙に押し戻そうと奮闘する様が描かれている。そう、分かる人は分かる!これはかの東宝特撮映画『妖星ゴラス』とそっくりなのだ!
『妖星ゴラス』は東宝による1962年の映画だが、ストーリーは、このままだと地球に衝突してしまう正体不明の燃える星・妖星ゴラスを回避しようと南極にジェット噴射基地を設置し地球の公転軌道を変えてしまおうと人々が奮闘する、という内容である。要は「隕石にぶつからないように、その軌道上から地球をズラしてしまおう」、というもので、この突飛な作戦が手の込んだミニチュアワークで描かれる作品なのだ。まあ、これだけだと「隕石襲来しか似てないではないか」という声も聞こえそうだが、ご安心(?)いただきたい。
なんと『かいけつゾロリ ちきゅうさいごの日』では、おなら一斉噴射直前に増幅器が事故で破損してしまい、隕石の正面に向けて角度をつけていた噴射口が、明後日の方向である上を向いてしまう。「これではおならは隕石に当たらない!」となるのだが、なんとそのまま発射されたおならは地球を下位置にズラし、隕石はそこを通り過ぎるという、まさに“ゴラス的解決”を迎えるのだ。原ゆたか先生!『妖星ゴラス』をご覧になったことは!ご覧になってはおりませぬか!!?
▲これが隕石を押し戻す“おなら増幅器”だ!
▲アニメ版での隕石接近シーン。
…などと、私が感じる「ゾロリは特撮映画に影響を受けているのでは」という部分を書き並べてみたが、これは何の確証もない一介の特撮オタクの妄言の域を出るものではない。タイトルで『検証!』とまで謳ってしまったが、それをする術がないのが現実である…。それでも何かヒントはないかと色々と探してみると、原作者・原ゆたか先生が2012年10月21日に放送された『情熱大陸』にて、「中野ブロードウェイでゴジラのフィギュアに目を輝かしていた」という情報を発見した。少なくともゴジラはお好きなんですね原先生!
六本木にあるというマンガに溢れた自宅兼仕事場でも、母親と家族を連れたプライベートのハワイ旅行でも、古いマンガやゴジラのフィギュアに目を輝かせる中野ブロードウェイでの買い物も、カメラが回らない風呂場、寝室でもイラスト入りで原ゆたかを演じ切る。
・累計3200万部の『かいけつゾロリ』を創る作者に感動!
色んなインタビューを読み漁っても、中々「ご趣味」に言及されているものは見つからなかった。前述の『情熱大陸』も、原ゆたか先生回のディスク化はされていないので、実際の映像を確かめる術がないのが残念である。ぜひ、「原ゆたか先生×特撮映画」の情報をお持ちの方は、私のTwitterまでお知らせいただけると幸いです。
ということで、特撮映画好きにもオススメしたい「かいけつゾロリシリーズ」。児童書ながらコミックのような楽しさが追求されており、「うんこ」や「おなら」を恐れずに描き切るそのスタイルは、時に批難を浴びながらも、現在進行形で金字塔を打ち建て続けている。ぜひ懐かしみながら、手に取ってみてはいかがだろうか。
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【過去記事】
・リドサウルスとエメゴジ。『原子怪獣現わる』と原作『霧笛』。ハリーハウゼンとブラッドベリ。
・結騎了の映画ランキング2016
・【総括】閉眼!『仮面ライダーゴースト』のメッセージ!
・『別冊映画秘宝 特撮秘宝 vol.5』に「田口清隆監督&『ウルトラマンオーブ』紹介コラム」を寄稿しました