こんにちは、YU@K(@slinky_dog_s11)です。
特に男が男に向けて言う「イケメン」は、何も顔のかっこよさだけを指すものでは無いというのは広く知られたことだろう。マスクのクオリティはもちろんベースとしてあるけども、立ち振る舞い・雰囲気・ファッション・言動・仕事ぶり…、その総合値が「イケメン」なのだ。
しかし俺は20代も後半になって、この言葉の限界に出会った。「イケメン」とは何なのだろうか。「神」も「教祖」も「偶像」も「帝王」も、果たしてそれの“類語”だったのだろうか。そう、2015年8月30日、福山雅治の故郷長崎・稲佐山で開催された凱旋ライブ『福山☆夏の大創業祭 2015』の最終日を観てきたのだ。以下、このライブのレポートを綴る。
きっかけは嫁さんが抽選で当選したことだった。俺はというと、福山雅治は確かに好きなミュージシャンのひとりではあったが、正直ライブにわざわざ行くほどではなかった。母が彼の大ファンで、幼い頃からスティックのりをマイクに見立てて『Message』を熱唱していたのは記憶にあるが、シングル曲もおそらく6割ほどしか知らないし、オリジナルアルバムをちゃんと聴いたことは一度もなかった。
とはいえせっかくライブを観に行くのだから、予習はしていった方が良い。緊急追加席の当選だったため、参加決定からライブ当日までわずか1週間。現時点で最新アルバムの『HUMAN』とニューシングルの『I am a HERO』をとにかくヘビロテし、雨降る長崎で当日を迎えた。
当日JR長崎駅に着くと、そこにはすでにファンがごった返していた。やはり女性の比率が高い。デビュー25周年、しかも福山の故郷長崎・稲佐山での三度目のライブ。ファンにとっては「ここで行かずしてどこで行く」レベルの大舞台だろう。駅には、ファンのメッセージボードが展示されていた。中央には福山の直筆サインも。この辺りで嫁さんは大興奮、浮足立っていた。俺も興奮はしていたが、やはり福山ビギナーとしての一抹の不安もあり、ライブでしっかり楽しめるかで頭がいっぱいだった。
駅の裏手のグッズ売り場に行く。自分達よりも、大の福山ファンである母のグッズを買いに来た。プレゼントするからどれが良いか選んで、と品目ボードを撮ってLINEで送る。「更年期で年中必需品だから扇子をお願いします!」との返事だった。歳をとったな、母よ。今年はろくに実家に帰れなくてすまない。次の帰郷時には福山のライブDVDでも買って帰ろうかな。
シャトルバスに乗って稲佐山の中腹まで。およそ20分。ローソンで買ったチケットを見せ、係員がテキパキと俺たちを誘導していく。25年活動しているミュージシャンのライブだけあって、やはり客層も、正直そこまで若くはない。母の年齢を考えるとそれも納得だ。ライブというお祭りに来たというより、地方に伝わる神社を訪れるために完全装備で登山するプロ参拝客の集団のようであった。でも何ら間違ってはいない。俺たちは“拝む”ために山を登ったのだ。
ライブ会場に着くとチケットを引き換えにブロック整理券を渡され、同時に白い妖怪ウォッチを貰った。見慣れない代物に困惑したが、どうやら腕に付けるものらしい。取り急ぎ右の手首に装着。興奮する嫁さんを会場ののぼりと一緒に記念撮影後、指定ブロックに出向く。我ら夫婦はあまりライブというものに行った経験が無い。俺も学生時代にラルクとミスチルのドームツアーに行ったくらいだ。だから、野外ライブなんて初めての経験だった。
アーチ状の大きなディスプレイが印象的な稲佐山特設ステージは、すでに沸いていた。女子トイレはもちろんのこと、男子トイレまで長蛇の列。観客の多くが、この空気の塵のひとつまで持ち帰ろうと熱気を露わにする。野外ライブに初参戦の俺たち夫婦は確実に準備不足だった。他の観客はビニールシートを敷いてすでに精神統一に入っていたし、中には持ち込んだ簡易座椅子に座って小説を読んでいる人までいた。
仕方なく入場時に貰ったチラシをお尻に敷き(唯一福山が“写っていない”チラシを選んだのは言うまでもない)、そこでスマホの天気予報を見て、どうやらカッパを持ってこなかった俺たちが正真正銘の馬鹿野郎なのに気付いた。
開演1時間前、会場では福山のラジオが放送された。事前に録音していたのか、この稲佐山ステージで待機する客に向けた内容。ファンサービスがすごい。あの艶やかでエロいボイスで読み上げる視聴者投稿ハガキの話題で、「福山雅治はセックスが上手いか否か」というトークに突入。まだ明るい夕方の4時過ぎに世界三大夜景にも数えられる稲佐山に福山のセックストークが響き渡る。
「抱かれたい男ナンバー1に選ばれても、期待値が余計に上がるだけで得ではない」。そう福山が語る。「でも、俺がライブに向ける情熱をもしセックスに注いだら、それはやばいことになりますよ」。単なるエロトークかと思いきや言葉の端々でまさにライブ直前の我々を盛り上げていく魅惑の46歳。「俺のセックスはまさにライブだね。もうね、泣くよ、お互い。『KISSして』から始まって『Squall』で終わる」と笑いを誘いつつ、ついに開演が迫る。
※※※
開演のブザーが鳴り響き、いよいよ高まる会場。手拍子の一体感が興奮を加速させるも、やはり俺は少し不安だった。女性ファンが多いアーティストだし、知らない曲も多いし、心底楽しめるだろうか…。そんな中、一台の白いバンのドアが会場左後方で開いた。前方の画面にバンから降りる男の脚が映る。
ギャァァァァアアアアアア!!!!と一瞬にして割れる会場。教祖・福山雅治46歳はまさかの会場後方から登場し、観客とタッチをしながら客席のど真ん中を駆け抜け、そのまま花道最前方に立ち上がる。嫁さんは大興奮でギャーギャー叫んでいる。「見て!近くを通った!福山!通った!見て!見て!やばい!」と、まるでギルデロイ・ロックハートを見付けた時のハーマイオニー・グレンジャーのように目を見開き俺の腕を掴み揺らす。落ち着け、俺を見ても仕方ないぞ、俺は福山じゃない。俺は福山じゃない。落ち着け。落ち着くんだ。
教祖は、割れんばかりの歓声に包まれていた。俺は絶句した。なんだあの生物は。“あれが俺と同じ生物学上の「人間/男」なのか?”。芸能人はオーラがすごいとか、そんなありきたりな表現では毛頭足りない。
俺を含めた会場にいる全ての人間の毛穴のひとつひとつから羨望と期待と憧れを吸い出し自らの身にまとうかのようなその立ち振る舞い。大気中に偏在する霊子のみならず霊子で構成された尸魂界の物質をも分解して自身の武器として再構築していたクインシーの石田雨竜を思い出して欲しい。まさにあんな感じだ。1曲目『その笑顔が見たい』からの『HELLO』に続き、気付いたら俺も少し飛び上がって全力で手拍子をしていた。
福山のMC。「帰って来たばい長崎~!」と故郷への想いをぶちまける。この日のライブは、長崎の別会場・水辺の森公園や全国の映画館、そして香港や中国でもライブビューイングが行われ、WOWOWでも生中継されているとか。そのためか、会場のカメラの数が尋常じゃない。手持ちカメラのスタッフも多数、会場の四方には大型クレーンがあり、各々から伸びた糸の中央に繋がれたカメラが縦横無尽に動き回る。その更に上空にはヘリの空撮まで(ヘリのプロペラ音までイケメンだった)。
全国、そして全世界への感謝を叫ぶ福山。「みんな!せっかくだから大きな声で“ましゃ~”って叫んでくれ!聞かせてくれぇい!せーのっ!」、会場「ましゃぁぁぁぁぁあ~~~!!」。“ましゃ”とは福山雅治の愛称だ。会場は大盛り上がり。続いて「男性の諸君!今日は来てくれてありがとう!大声で“福山~”って叫んでくれ!せーのっ!」
俺「ふくやまぁぁぁぁぁぁぁアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
つい、一瞬で喉が枯れるくらいに叫んでしまった。まるで「イモータン・ジョ~~!」のウォーボーイズだ。十数分前のライブを不安視する俺はもう死んでいた。あのカリスマ性は、もはやイケメンを超えたイケメン。皇子でも王子でもなく、帝王の風格。偶像であり教祖。俺の心は完全に掴まれていた。DIOに生きていることを悟られないように承太郎の心臓を掴むスタープラチナくらいには掴まれていた。
※※※
ライブの所々のムービー、そしてMCで、福山雅治の長崎への複雑な思いが語られる。18歳の時、地元で5ヶ月のサラリーマン生活を経て上京した。「ここには何もない」と、長崎を捨て、東京に夢を見た。そんな男はアーティストとして成功し、2008年には「長崎ふるさと大使」にも任命された。自分が半ば見捨てた土地・長崎の人々は、いつも自分を応援してくれていた。「音返し(おんがえし)」と称された彼の長崎関連の音楽活動は原爆を含め平和への祈りに届き、被爆クスノキを歌った『クスノキ』というナンバーは海をも超えて歌われた。故郷と夢という彼の中だけのバランスが、いくつもの曲に溢れていた。
『約束の丘』『18 -eighteen-』『遠くへ』『蜜柑色の夏休み 2015』『昭和やったね』と、福山の長崎への想いを込めたナンバーがライブ前半のメインだった。幼少期の記憶、祖母とのやり取り、思い出の景色、初めて演奏したライブハウス、離れて行った故郷。こられの曲を、この稲佐山で歌うことに意味がある。
巨大ディスプレイにはまるで歌番組のようにリアルタイムで歌詞が映し出される。知らない曲も多かったが、その言葉のひとつひとつをじっくり歌い上げる福山の想いを察するに、つい涙腺が潤んだ。彼はどんな気持ちで、今この歌っているのだろうか。
「アーティストの持つテーマにどれだけ観客がついていけるか」という問題は、常に大きなライブでは付きまとうだろう。観客からしてみれば、究極的な部分でアーティスト本人の“想い”はどうでもいいのだ。我々を楽しませてくれれば良い。極端な話、ファンに人気の高い曲でセットリストを組んで演出を派手にすればそれで多くの観客が喜ぶのかもしれない。
そんな会場で福山雅治は、誰よりも“自分”を歌った。言うなればこれほどに自己中心的なことはないし、全ての観客を自身のアルバムに強制連行しているようなものだ。でも、彼がひたすらに“自分”を歌うことを、会場のほとんどのファンが“喜び”と感じていた。とっても特殊な空間だった。それは、彼がこれまで述べてきた長崎への想いや音楽活動を、多くのファンがすでに知っているからだろう。こんなにも悠然と我が通り受け入れられる空間があることを、俺は初めて知った。
※※※
あいにくの雨天だったからこそ、即興でアコギを持ち出し会場の皆と『長崎は今日も雨だった』を合唱する。そんなサービス精神の塊のような男は、常に生き生きと、ステージを駆け回った。曲のたびにギターを交換し、常に誰よりも観客のことを考え、誰よりも自分自身が楽しみ、歌と演奏に心血を注ぐ。
ディスプレイに映し出される映像の全てのカットがイケメン以上のイケメンで、どこで静止したとしても絵画として美術館に飾れるだろうと思った。甘美な表情も、男臭い眼差しも、少年のような笑顔も、終始俺を魅了した。以前から彼のファンだった人は、もうこの上なく夢心地だったろう。花道で歌うバラードパートでは、周囲から鼻をすする音が何回か聞こえた。特に『道標』あたりは、福山自身も万感の思いのようだった。言うまでもなく嫁さんも号泣していた。
雨は降ったりやんだりを繰り返した。ギリギリの所でどしゃ降りにならない空が完全に暗くなった頃、ライブも後半、アップテンポの曲で盛り上がろうと福山から号令が放たれた。『HUMAN』で盛り上がりが最高潮になったタイミングで、右腕の妖怪ウォッチが突如点灯。曲のフレーズに合わせて点いたり消えたりを繰り返し、白・赤・緑に色を変え、観客の手拍子や手扇子を彩る。
事前に曲の進行に沿うようプログラムされているのだろう。一体感がダンチだ。まさに俺自身が、全員が、「福山雅治のライブ照明」になったのだ。気付けば、今夜の俺たちこそが「稲佐山の夜景」そのものだった。
インスト『Revolution//Evolution』でこれでもかとギターをかき鳴らし、『GAME』『ステージの魔物』と縦横無尽な低音ボイスを畳み掛け、『Cherry』ではまるで愛撫するかのようにギターを撫で回し、『I am a HERO』で会場の盛り上がりは最高潮に達する。放たれるスモークと勢いのある火柱、レーザービームが夜空に突き刺さり、照らされた雨がまるでラメのように光る。そんな舞台装置よりもはるかに輝く福山は、雨と汗を散らしながら観客を煽る。しきりに「一緒に歌ってくれ」と一体感を要求し、ディスプレイに映るカメラに向かって手を伸ばす。一見好き放題やっているようで、実は緻密に計算されたエンターテイナーとしての一挙手一投足にため息が漏れる。25年間、ファンとライブという形で接してきた彼の経験則が、爆発していた。
盛り上がりの中ライブは一旦終了。しかしそこで謎のコールが湧き上がる。「持ってこーい!持ってこい!持ってこーい!持ってこい!」と、両手でステージの熱気を引き寄せるかのようなジェスチャーをするファンの方々。近くの女性にいたっては、膝から曲げて屈伸をしながら両手を振り、まるでどこかの地元のお祭りの慣例パターンかのように全身で「持ってこーい」を繰り返す。どうやらこれが福山雅治ライブ流の“アンコール”コールらしい。理解した後に、俺も負けじと声を上げる。「持ってこーい!持ってこい!」。(追記:コメント等で教えていただいたのですが、「持ってこーい」は長崎のみのパターンとのことです。すみません)
まもなく、教祖再登場。『明日の☆SHOW』『何度でも花が咲くように私は生きよう』『追憶の雨の中』を歌い上げる。デビュー曲でもある『追憶の~』は、ラストに何度も何度もジャンプをして、野外特設ステージは大いに揺れた。その後にサポートメンバーをひとりひとりフルネームで紹介し、何度も感謝の意を述べる福山。逆にメンバーからも垂れ幕のサプライズを受け、そのチームの仲の良さを観客に見せつけた。
そこから再度「持ってこい」からの、二度目のアンコール。時間はすでに3時間を超えている。アラサーの俺は立ちっぱなしで正直ちょっと腰が痛いのに、46歳の福山はあと数時間もやれそうなくらいに元気だった。もはや人間じゃない。『少年』『暁』と見事なクールダウンを決め、何度も何度も、本当に何度も長崎と稲佐山に礼を述べ、福山雅治はステージを後にした。疲労感は多幸感だった。帰りのシャトルバスに乗る際には、花火が打ち上がった。
※※※
イケメンを超えたイケメンの所業を拝んだ俺たち夫婦は、分に5回の感嘆のため息と一緒に山を降りた。思わず頭を駆け巡ったのは「俺って、なんなんだろう…」というマイナスな感情だった。人類を福山雅治寄りかそうでないかで分けた時に、生物学的に福山雅治寄りの方に数えられるであろう俺だけど、あまりにも自分とは桁が違う生き物を目にして、自らの人生のちっぽけさを実感した。
同じ人間、いや、同じ男として、彼と同じDNA配列であることが申し訳なくなった。いや違う、そもそも比べるもんじゃない。分かってる。でもそれほどまでに言葉を超えたイケメンオーラがほとばしっていて、見事に溺れ、挫かれたのだった。
帰りの電車の中、夫婦で感想を言い合った。辿り着いた結論は、「早く結婚してくれ」というものだった。つまり、彼の遺伝子をここで絶やしてはいけない。それは人類の損失だからだ。福山雅治のあの遺伝子を、一代で完結させてはいけない。そんな討議を交わしたくなるほどに、彼は正真正銘の「イケメン」だった。立ち振る舞い・雰囲気・ファッション・言動・仕事ぶり、その総合値が人智を超えていた。
家に帰った後に、嫁さんはシャワーより先に家計簿を開き、ファンクラブの会費と睨めっこをしていた…。
【8/30(日)セットリスト】
14:00開場 17:00開演
1.その笑顔が見たい
2.HELLO
3.虹
4.約束の丘
5.18 -eighteen-
6.遠くへ
7.蜜柑色の夏休み 2015
8.昭和やったね
9.とりビー!
10.幸福論
11.クスノキ
12.長崎は今日も雨だった
13.蛍
14.ひまわり
15.あの夏も 海も 空も
16.道標
17.その笑顔が見たい
18.Prelude
19.HUMAN
20.Revolution//Evolution
21.GAME
22.ステージの魔物
23.Cherry
24.I am a HERO
25.明日の☆SHOW
26.何度でも花が咲くように私は生きよう
27.追憶の雨の中
28.少年
29.暁
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