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Channel: YU@Kの不定期村
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ハン・ソロから読み解く続三部作としての狙い。「スター・ウォーズ フォースの覚醒」の作劇チャート

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こんにちは、YU@K(@slinky_dog_s11)です。

公開日初日初回に2D字幕で鑑賞した「スター・ウォーズ フォースの覚醒」。後日、4DX吹替で2回目を鑑賞した。座席が揺れ動き風や光や水や匂いまで飛び交う4DXは、さすがと言うべきかSF超大作との相性は抜群。ミレニアム・ファルコンと一緒に縦横無尽に空を飛び、雪原では実際に目の前に吹雪が舞い、フォースが高ぶるとガタガタと地鳴りのように座席が沸き立つ。レーザー銃がすぐ後ろで発射され頬をかすめ、砂漠の惑星ではその吹き荒れる風を肌に感じ、宇宙を見上げると一緒に体がのけ反りに傾く。没入感が本当に半端じゃなく、2回目の物語なのにえらく新鮮に感じた。何より開始5秒の“光の演出”が最高すぎて泣きそうになってしまったくらいで、ぜひ4DXでの覚醒体験は多くの方に体感して欲しいと思う。

そんなこんなで新しい感動もありつつ、2回目を観ると物語の全体構造がよく見えてくる。10年前に完結“したはずだった”、もっと言うと、32年前にハッピーエンドを迎えた“はずだった”物語が改めて歩を進める。世界的なSF映画の金字塔をもう一度起動させる上での、J.J.エイブラムス監督をはじめとするスタッフ一丸の全力の覚悟がヒシヒシと伝わってくる。それは、過去6作のセルフオマージュを多く盛り込んでファンサービスに徹しながら、でも安易な真似っこに終わらず新しい三部作(「続三部作」?)を開始するにあたっての線引き(精算と意志表明)がしっかり示されているようで、非常に高い次元で組み上げられている印象を受けた。


※以下、「何を語ってもネタバレになる」本作をとことんネタバレ込みで語っていくので、くれぐれも鑑賞予定の方は読まずにページを閉じてください。



後追いで観た私でさえショックなのだから、旧三部作リアルタイム世代の方はもっと愕然としていることだろう。「あの銀河のハッピーエンド」が、そもそも否定されてしまったのだ。もちろん、スター・ウォーズの物語は前後に延々と続く銀河の歴史のほんのひと時を切り取った格好を持っているが、やはりEP6における森のお祭りが“物語”として受け取っている我々にとっては明確な“終わり”であった。30年後とはいえ、帝国はファースト・オーダーという組織に形を変えてあの銀河に混沌をもたらしており、そもそも「EP6の戦いで終わっていなかったこと」になってしまうことが、かなりの覚悟を求められるのではないだろうか。(ジャンルは違うが、仮面ライダークウガの後番組アギトで続編が示唆されたがクウガ製作スタッフによる「五代(主人公)が守った平和がまた脅かされるのはいかがなものか」という反対があり続編要素がうやむやになった、という話を思い起こす)





初日初回を鑑賞したその晩に書き殴ったレビュー記事『「スター・ウォーズ フォースの覚醒」、その伝承を“認識”せよ。』でも書いたが、今回の「フォースの覚醒」は非常にハイブリッドな作りだ。それは、例えば物語の大筋が旧三部作の良いとこ取りだったり、「砂漠」「雪」「緑」の惑星が登場するシチュエーション、新三部作で意欲的に用いられたVFXも組み込みつつ旧三部作然としたSFXメインの絵作り、そして何よりも新登場人物たちとオリジナルキャストの共演。そのようなシリーズのファンにはたまらないご褒美が大いに盛り込まれてはいるが、それだけに終わっていない部分が一番の魅力に直結しているのが、本作最大のポイントだ。


※※※


改めて、メイン4人の登場人物の作劇チャートを作ってみた。(ペイントでテキトーに線引きしただけなので粗雑なのは見逃してください…)





一目瞭然なのだが、新たな3人の主人公とも言える「レイ」「フィン」「カイロ・レン(ベン)」が、起承転結の「起」や「承」でそれぞれ入り組むように絡み合っていく。更には途中から“旧三部作の体現者”ともいえる「ハン・ソロ」が加入し、彼が沢山の「スター・ウォーズらしさ」を作品内に持ち込む(彼を中心にファンサービス要素が撒かれていく)。そして、「転」に当たるスターキラーでのハン・ソロの死に、初めてしっかりとその全員が一堂に会する構成になっているのだ。

ソロの死はこの物語の大きな転換点となっており、衝撃の展開を目撃した(実行した)3人の主人公たちが、このタイミングで一斉にタイトル通りに「覚醒」を果たす。カイロ・レンは父を殺すことで自身の光への甘えを断ち切ろうとするし、フィンはそんな暗黒面の存在にレイを守りながら挑んでいく。最終的にレンの手をすり抜けてライトセーバーを獲得したレイは、この上なくストレートに「フォースの覚醒」を体現する。レンよりレイの方がフォースのパワーが強いことは拘束のくだりで描写されており、その上で「伝説の存在・ルークのセイバーを獲得するのは誰か」という、ハリー・ポッターで言うところの「ニワトコの杖の所持者」のような一種の神秘性とメッセージドラマがそこに込められているから面白い。レイが主人公(名実ともにルークの後継者)になったことが観客にガツンと示されるのだ。





過去の6作は「起承転結」というよりは「転転転転」というニュアンスが強く、スター・ウォーズという聖書であり叙事詩としての面白さはあったが、それぞれを単体のひとつの映画として見ると、かなり歪なバランスであったように思える。今回の「フォースの覚醒」は新たな三部作(そして10年ぶりの新作)を紡ぐにあたって、「ファンへのサービスとオマージュ」「新たなキャラや要素の種蒔き」を融合させながら、それでいて「レイの物語」という「起承転結」が映画的にしっかり果たされているのが面白い。(だからこそルークが名実ともに立ち上がるまでのEP4に近い)

誰かを待ちながら心のどこかでその諦めを悟っていたレイは、フィンやソロと関わり、「誰かに必要とされること」を実感してその意味を覚えていく(ソロの求人のくだりが顕著)。そして自分を承認してくれたソロが命を落とし、レイアに抱きしめられた後にルークに出会う。ライトセーバーを用いて独りで戦うという一種の通過儀礼を経て、「待ち続ける自分」を「銀河と関わる自分」にアップデートさせていく。多少邪推だが、近年のディズニープリンセスの「待ってるだけじゃダメ、自分で獲得していかなきゃ」な流れにも沿っているようで興味深い。


※※※


だからこその「ハン・ソロの死」なのだ。新たなスター・ウォーズを紡ぐにあたって、彼を中心に過去の要素やファンサービスを沢山持込み、そして彼を退場させることで、その展開が新たな主人公たちの物語を混在させていく。終わってみれば、ソロを架け橋としてレイとフィンとカイロ・レンの関係性や因縁は非常に魅力的に絡み合ったし、一刻も早く彼らの次の物語を観たい人が世界中に溢れていることだろう。「わざわざハリソン・フォードを引っ張り出して死なせるなんて」という声も大いに分かるのだけど、このシークエンスがあるからこそ「過去のスター・ウォーズを汲みながら新しいスター・ウォーズを提示する」ことに成功しているのだ。私には、ソロを死なせることによる過去のスター・ウォーズとの決別と、明確な「その後を描くんだ!」という意思表示をそこに感じてならないのだ。(あまり考えたくはないが、御年73歳のハリソン・フォードをここでシリーズから退場させておくという製作上の政治的な理由もあるとは思う…)

ある意味、今年で挙げれば「アベンジャーズ / エイジ・オブ・ウルトロン」を観た時の感覚に近い。ここまで世界的にヒットしたシリーズの最新作であり、もっと分かりやすく喝采を得られる作り方があるにも関わらず、あえて遺恨を残す形で“次”への布石を置く。その覚悟の現れこそが作り手のシリーズに対する意思表明であり、だからこそ覚悟をまじまじと見せつけられたショックが、観終った後の「どこか両手を挙げて喜べないけども確実に心を揺さぶられた…」というジンワリとした感慨に繋がっていく。ここまで明確に踏み込めるからこその、さすがの“金字塔”だなあ、と。





ソロの死を経験し疑似父親を失ったレイは、今度はルークに父性を求めていくのだろうか。そしてそのルークは、もしかしたら本当に彼女の“父”なのかもしれなくて、だからこそ自身の父を殺したカイロ・レンとの因縁も興味深い。「ベイダー(アナキン)とルーク」というスター・ウォーズの骨格にあたる「父と子の物語」は、ソロの死を通して確かに次世代に受け継がれたのだ。


(あわせて読みたい)
【公開日深夜感想】「スター・ウォーズ フォースの覚醒」、その伝承を“認識”せよ。(ネタバレ込み)
「アベンジャーズ / エイジ・オブ・ウルトロン」は駄作でも傑作でもない


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