こんにちは、YU@K(@slinky_dog_s11)です。
最近、自分でも意外なことに、「ゲスの極み乙女。」にハマっている。2015年の紅白歌合戦にも出場し飛ぶ鳥を落とす勢いで売れている彼らだが、正直最初は完全に舐めていた。というか、謝るからこそこの表現を使わせて欲しいのだけど、ちょっと馬鹿にしてた部分すらあった。ごめんなさい。
ぶっちゃけて言うと、「尖ってるなあ」というのが第一印象だった。御多分に洩れずコカコーラのCMで流れるあの「私以外私じゃないの」が耳に残ったのが第一印象だったのだけど、やけに洒落っ気の強いメロディと言葉遊びっぽい歌詞と、そして極め付けはバンド名が色々とアレだった。「ゲスの極み乙女。」ってなんだよ。毒のある単語とそうでない単語を組み合わせて文章風味で最後に「。」を付けちゃうのか、うわぁ… 、と。「尖っている」という感覚は、言い換えれば「世界観を作り込んでいる」とでも言おうか、ファッションから音楽から自分たちのカラーをガツンと提示して「分かる奴だけついてこいよ?」的な、なんかそういうバンドってあるじゃないですか。無闇にオシャレな感じの。例に出してしまって申し訳ないのだけど最近だとセカオワも私の中ではその系譜で、あのセルフで作り込んだ世界観と「っぽさ」の演出のくどさがあまり好きではない。(最近の彼らは一周してそれをネタにしつつ脱皮してるような印象だけども)
「ゲスの極み乙女。」も、第一印象はそっちの系譜だった。だってあのメロディの面構えと歌詞とバンド名と… もうバッチリ条件揃っちゃってるよ、と。「また“これ系”が出てきたのか…」と、もはやティーン層でもなんでもなく三十路を前にした奴が偉そうに斜に構えていた。更には「私以外私じゃないの」って!私以外私じゃない!? 当たり前だろ!なんじゃそりゃ!? って。ほんと申し訳ないけど心の中で小馬鹿にしていたのが本音である。
そんな感じだったのだけどあの「私以外私じゃないの」のやけにキャッチーなメロディだけは耳に残しつつ、ある時たまたま観ていた歌番組に彼らが出ていた。「へぇ、こんな人たちなんだ」とトークの模様を観ていたのだけど、ぶっちゃけ全然「尖って」いなかったのだ。あくまで私の印象だが、各々がかなり(良い意味で)ラフな姿勢でバンド活動に取り組んでいて、それでいて実はサラリーマンと二足の草鞋だったけどこっちがそこそこ売れていたから会社辞めたメンバーがいるとか、これまた良い意味で割と「その辺の人たち」っぽさがあった。演奏中も、雰囲気を作ったりするよりは本人たちがゆるやかに和やかにプレイを楽しんでいた。「俺たちの音楽が分かる奴だけついてこいよ。文句は聞かねぇ、いや、俺たちの耳には聞こえねぇんだ」的な尖り方は、そこには全然なかった。
「いいじゃん、ゲスの極み乙女」。そんな印象を持ち心の中で謝りながら改めて「私以外私じゃないの」をちゃんと聴き、その流れで既に出ているシングル曲を全部聴くことにした。何度も何度も聴いていると、非常に面白いバンドだなあ…と、また何度も何度も再生してしまうループにハマっていった。
彼らの音楽はボーカルの川谷絵音が全て作詞作曲しているというが、ご存知のとおり(?)非常に独特である。しかしどこか謎のデジャヴがあって、何度も聴いているうちにその正体に自分なりの答えが出た。これ、ジャズっぽいんですよ。もちろんそれはピアノがかなり前面に出てる楽曲というのもあるけれど、ゆるやかに流れつつも意図的に「躓き」を入れ込む構成や、キャッチーなテーマの反復、細かいアレンジで同じメロディを応用し、手数の多いドラムで精密かつリズミカルに牽引していく等々、聴き心地が非常にジャズに近いのだ。シングル数曲をずっと流しで聴いていると、ジャズアルバムを部屋で流しているような錯覚に襲われる。そして時たま「あ、このフレーズがまたきた。いいよなあ、クセになる」という部分が、結果的にサビなのだ。サビを顔面としてそこに全体をかけて持っていくJ-POPというよりは、全体が常に流れていて良い意味で「ひっかかるフレーズ」がサビというか、面白い曲を作るなあ、という感想に落ち着いてきた。
ボーカルの声は適度に気だるくて爽やかで、これまたクセになる。発声、というか声のバリエーションは、「(1)もごもごとした小声」「(2)アタックの強い声」「(3)女性コーラス」「(4)コーラスとの被らせ」の主に4パターンであり、これらがコロコロと切り替わりながら複合パターンも混ぜて進行していく。(1)は主にAメロあたりで用いられ、小声でボソボソと語るように歌うので初見ではほとんど歌詞が分からない。更にはドラムやピアノの音が割と大きく、ボーカルが絶対的な主役ではなく楽器のひとつのように位置付けられている。だからこそ(2)でガツンとボリュームが上がるとインパクトが抜群で、その緩急がどの曲も上手く作用している。バリエーションとして(3)や(4)も混ざり、応用パターンとしてこれにファルセットも加わる。その多重人格のようにコロコロと切り替わる歌声のパズルが絶妙で、ついつい耳が追ってしまうのだ。
ゲスの極み乙女。 - オトナチック
何度も書いているように、彼らの楽曲はピアノのインパクトが大きい。例えば「オトナチック」のサビなんて物凄くて、ピアノだけに集中して聴くとまるでクラシックのように壮大なメロディを“打ち込んで”いる(ピアノは一種の打楽器なのでこう表現したい)。ピアノがL'Arc~en~Cielのベースくらいには縦横無尽に動き回り、脇を固めるドラムとギター、全体を統括するベースというバランスが非常に絶妙であり、リズミカルなのだ。ここぞというピアノが主役のターンにはドラムが止んで、そこが終わったら裏拍からストンと復帰したりと、これまたジャズのような見え隠れのパターンが使われてるのも聴いていて楽しい。「あ、そこピアノのちょっとしたソロね」という感じである。
作曲面でもこれまた聴き込んでいくと面白いのだけど、1stシングル「猟奇的なキスを私にして」のサビは初めて聴いた時に思わず「気持ち悪っ!」と悲鳴を上げてしまった。それは決して悪口ではなく、非常に居心地が悪かったのだ。J-POPとして王道の4/4の拍子で進行していくのだけど、サビはその4つ打ちの伴奏がそのまま進行しつつボーカルのメロディだけが転がるように前倒しで回っていく。メロディと伴奏の拍子が完全にズレていきサビの最後に巡り巡ってケツが合わさる構成なのだけど、この居心地の悪さが初見ではかなりキツかった。でも、“だからこそ”クセになる。右手で伴奏、左手でメロディの拍をトントンとしながら分解して聴いていくと、非常に緻密に作り込まれているのが分かり、ほぐしがいがあった。
ゲスの極み乙女。 - 猟奇的なキスを私にして
Aメロ→Bメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→サビ→間奏→(Bメロ)→サビ(×2)という構成がJ-POPの王道パターンなのだけど、ゲスの極み乙女はこれを意図的に崩すバリエーションが多彩で、もっと厳密にいくと大局的にはこのパターンなのだけどそれをそれと感じさせない煙幕の配置がテクニカルだ。コーラスの入れ方や伴奏パターンの変更により、同じメロディの繰り返しという印象を薄めている。だからこそ、大局的なパターンの中で崩しと変則性を求めて一方通行していく様がこれまたジャズっぽい造りであり、だからこそ、その細かな変化ポイントに「気付ける」楽しさがある。こういうちょっと捻った楽曲に大事なのは聴き手が「気付ける」ことであり、それが段々と「クセになる」に昇華されていくのだ。あそこまで変なメロディなのにサビがどの曲もあり得ないほどにキャッチーなのも興味深い。
私以外私じゃないなんてそんなの言われなくとも分かっとるわい! …という感じではあったのだけど、特にネットをしているとこれを痛感することが多い。私以外私じゃないからこそ色んな意見が面白くて、私以外私じゃないからこそクソリプみたいなのも飛んでくる。だからこそ、私は私として生きていくしかないんだよなあ… という諦めと決意の同居というか、そのアンニュイな感じがむしろ多くにウケている現状もまた面白い。
聴けば聴くほどにその歌詞の面白さに気づき、作曲の煙幕とテクニカルな部分に気づき、声のバリエーションや楽器隊の動きに気づき、彼らの一見不透明のようであっけらかんとした人柄とのギャップにまた気づき、そうして初見の印象からガラリと変わり、ハマって聴いてしまうようになった。自分としてはかなり前のことだけどSOUL'd OUTも同じ流れがあって、初見で「なーーーにがwwww」などと舐めてると後でガッツリとハマってしまうのである。
つまりは、「なーーーにがゲスの極み乙女じゃwwww」という人にこそ、まあまあ聴いてみてくださいよ、ということを書きたかった。一応「映画・特撮ブログ」なのに2016年初更新がまさかのゲスの極み乙女というよく分からないことになったけれど(更には言われなくとも既にみんな聴いてるだろうけど)、でも、好きになったものって好きになってる途中が一番語りたくなるんですよね。
(御礼記事)
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