Quantcast
Channel: YU@Kの不定期村
Viewing all articles
Browse latest Browse all 177

大傑作!「ジョーズ19」が放つ堅実かつ挑戦的な次世代サメ物語(ネタバレ+解説レビュー)

$
0
0



こんにちは、YU@K(@slinky_dog_s11)です。

2015年10月21日、全世界同時公開の初日初回をIMAXで鑑賞してきました、「ジョーズ19」。映画界でも屈指の長寿シリーズであるジョーズシリーズ最新作。前作「ジョーズ18」(実質1作目リブート)が本当に傑作でその年のベストに選んだくらいに気に入った作品だったので(サメ映画の基本を塗り替えたクライマックスの演出が見事)、実は今回かなり不安が大きかった。しかし、いやはや本当に、「マックス・スピルバーグ、やってくれたな!」、と。もはや使い古された環境問題をテーマに、そこに住むサメたちのプライドと人間の意地の交錯というか、むしろ実はサメ側が勝って終わっても良いんじゃないか、というプロット構成。そして友情の物語にもなっているのが熱い。間違いなしの作品と言っても差し支えないんじゃないだろうか。

そもそも今回はIMAXと正式提携が発表された新型3D機構の世界的な第一弾であり、その技術的な面にも注目が集まっている。簡単に言えば「メガネ要らずの3D」なのだが、これがもう本当にすごい。スクリーンの上部から巨大なサメが襲い掛かり、丸飲みにされるあの感覚。4DXは追体験として秀逸だが、今回の新型3Dはそこから“追”を取っ払うべき完成度だった。前述の丸飲み立体映像は全国各所の映画館の店頭でデモが流れているということで、気になる人はまずそこからチェックしても良いかも。


Jaws 19 - Trailer (予告)



改めてジョーズシリーズを振り返ると、やはりそれは迷走の歴史だったと言わざるを得ない。シリーズ不振の打開策として製作された「ジョーズ7」ではまさかのネットに巣食うデータとしてのサメを描き、世界中の顰蹙を買った。新機軸にも程があった、と言うべきか。その後も「ジョーズ8」のロボットサメ、「ジョーズ11」の宇宙の戦い、「ジョーズ16」のサメ旅行記など、いわゆる“珍作”と呼ばれるものが多い。新たなジョーズを打ち出すことで毎回目新しさはあったものの、やはりシリーズとしての威厳というか、“格”は落ちていった。特にオールドファンからの批判はすさまじく、ジョーズシリーズ製作陣と全世界のファンの対立を描いたドキュメンタリー映画「ピープルVSジョーズ」も制作された程だ。

だからこそ前作「ジョーズ18」は映画ファンに喝采を持って迎えられた。それは、オリジナルチームにおける実質的な1作目のリブート。あのスティーヴン・スピルバーグが1作目から40年の時を経てシリーズの監督に復帰。ピーター・ベンチリーが生前書き残していたというプロットを採用し、リチャード・ドレイファスを物語の重要なポジションに置くという徹底ぶり。現代のSFXとVFXを存分に用いながらも、1作目の持ち味だった根本的な「水への恐怖」、そして有無を言わせぬ「巨大なサメの恐怖」に立ち返った。

そんな基本中の基本を踏襲しつつ、クライマックスではそれを覆すという展開へ。これにより“基本”が“ニューステージ”にガツンと昇華された素晴らしい作品だった。「これこそがジョーズだ!」と言わんばかりに世界でも大ヒット。私も映画館に計3回足を運び、ついついシリーズ総括の特典ディスクまで含めた20枚組ワールドジョーズ ブルーレイBOXまで買ってしまった。

そんな大傑作だった「ジョーズ18」の次ということで、前述のとおり非常に不安が大きかった。どうやったって見劣りする可能性が高いし、しかも新型3D機構の実質的な実験作でもある。飛び出てくるサメのインパクトが重視され、映画として少し軽いものになりはしないかと心配だった。しかも監督はスティーヴン・スピルバーグの息子、マックス・サミュエル・スピルバーグ。なんと今回が初監督作品とのこと。映画界屈指のサラブレッドということで世界中から期待と不安が集まる中、まずはよく撮り上げたな、という変な安堵感が強い。プレッシャーは凄まじかったと思う。





「ジョーズ19」が環境問題をテーマにすると知った時は本当に目が回ると思った。いや、海とサメの物語で環境問題を扱うのは全然変なことじゃないし、むしろ必然なのだが、この2015年にそれをやるのか?という呆れにも近い感覚が強かった。散々語り尽くされているのだ。「人間は愚か」「環境そのもの、またはそれを騙る者の復讐」「生態系をリセットすべき説」「人類は地球の病原菌メソッド」、この辺りのプロットの作品は世の中に死ぬほど溢れているし、その軸を超えてくる作品は極端に少ない。もちろん、「人間は愚か」というのはジョーズにおいて大事なテーマだ。1作目の観光利益を優先する市長の判断による最悪の事態、14作目の馬糞に突っ込みがちなツーブロックのヤンキーがやってしまった判断など、そこは珍作が多いシリーズにおいてもほぼ一貫して描かれてきた。でも、それを今更「ジョーズ」でやるのはどうなんだ、と。

でも結局、私は観た後に心の中でマックス・スピルバーグに土下座していた。環境問題はもちろん根底に流れているのだけど、今回はそれを人間ではなくジョーズ側のドラマに割り当て、サメの特殊な生態系にまで言及した正真正銘の「サメ映画」に仕上げていた。人間が支配する地球という環境下でサメがどのように進化してきたのか、得てきたものと捨ててきたもの、そして人間がサメに抱くイメージをメタ的に捉えた描き方。つまり、1作目「ジョーズ」以降、本当は危険な食人サメはごく一部なのにサメ全体が恐怖の対象となったあの意識の変化をシリーズに流入させ、サメの立場から「人間におけるサメ」を間接的に語るという構造を作って見せた。そしてこれを環境問題という口当たりの良いオブラートでまとめあげることで、よりそこに包括された種族間のドラマが際立つという構図だ。

しかし、人間側のドラマが決して薄くなっている訳ではない。主人公であるトーマス・J・ロイドと、その相棒ともいえるクリスピンの活躍。ぶっちゃけて言うとサメが出てこなくてもこれだけで映画として秀作と言いたいくらいの「漢のドラマ」。日本人的には馴染み深い往年の刑事ドラマのような、一歩間違えたら馬鹿馬鹿しいくらいの友情と仲間の関係性。それをこの2015年に、しかもハリウッドでカラッと濃厚に仕上げているのが一周してとても新鮮なのだ。そもそも冒頭の「ジョニー・B.グッド」を流しながらドライブする2人の会話だけで掴みは抜群。あの会話だけでキャラクター描写がグッと近づいてくるのはデヴィッド・フィンチャー監督「ソーシャル・ネットワーク」の冒頭を思い出すほど。





トーマスの母が信奉するインチキ占い師が言う「10時4分の災厄」を鼻で笑う彼らだったが、これが全編にわたって繰り返しギャグとして扱われるのも面白い。プロットだけ書き出せば結構重くてハードな展開なのに、この「10時4分の災厄」ネタがカラッとした笑いを散りばめている。郵便局入り口で誤認逮捕されるくだりは本気で笑いを堪えるのに必死だった。トンネル出口で路肩のトラックに追突しかけるシーンも笑った。


※以下、本編のネタバレがあります。


やはり、物語の中盤でクリスピンが死んでしまう展開には度肝を抜かれた。それも、サメに喰われて死ぬのではない。サメにより巻き起こるドラマのしわ寄せのような形で、彼は軽々と命を失ってしまう。その後のトーマスが、サメに復讐する事を“是”とするか“非”とするか、そもそもなぜサメは人間に危害を及ぼすのか、クリスピンの死を皮切りに「人間とサメ」の構図がグングン深まっていく。でもサメ側でも絶対に欠かせないドラマがずっと進行していて、これはトーマスのようなある種“個人的”なものではなく、サメという種の存亡と儚い命運をもう阿呆かってほどにドラマチックに演出していく。最終的に、まさに「両雄、出会う」という形でトーマスとジョーズが大立ち回りを繰り広げるのだけど、どっちが勝っても救われないドラマしか待っていないので、その絶望感が涙を誘う。なんて切ないんだ、と。

しかもここでトーマスのジョーズへの対応がものすごくヒーロー然としていて、クリスピンの死を乗り越えたからこその言説というのはものすごく分かるのだけど、それを今のジョーズに向けることがどれだけ酷なことかと。でも観ている私の感性は圧倒的な迫力で描かれる巨大なジョーズに確実に恐怖していて、体ではジョーズを拒否しているのに、頭では応援したいような、それでもトーマスの内心を思うとやり切れなくて、ついには体が震え出してしまう。完全に五感が迷子になるのだ。

映像的な面でいうと、やはり新しい3Dはすごかった。これがまさに「特撮」の新境地だな、と。映像で嘘を付くのもこのステージまできたかと、映像技術そのものにも感動してしまったし、何度も冷や汗をかいた。客席に向けて立体視でサメが襲い掛かってくるあの予告でも有名なシーン、私はあの時、確実にトーマスになっていた。映画館で死を覚悟したのは生まれて初めてだった。今後、IMAXと提携して第二弾の「娯楽のパラダイス」、第三弾の「クレイトン・パニック」と続いていくとのことで、そのパターンの多様さもこの目で確認したいところ。

あえて言えば、クリスピンの過去話がちょっと強引とか、ジョーズ側の描写をもうちょっとマイルドにやって欲しかったとか、メインテーマが流れるのはもっと溜めて欲しかったとか、色々あるにはある。しかし、リブートによってリセットされたジョーズシリーズの新たな“1作目”として、この上なく堅実で挑戦的な作品だったと断言したい。この映画は映画館で観ないと意味が無いタイプなので、ぜひ一刻も早く、映画館に駆けつけて欲しいと思う。


※映画・特撮の感想など、全記事一覧はこちら
【Twitter : @slinky_dog_s11 】【はてなブックマーク : slinky_dog_s11 】【LINE : @fgt3013f

【過去記事】
どうして「体育の授業」のおかげでスポーツが嫌いになってしまうのだろう
アラサー男子は福山雅治の長崎稲佐山ライブでイケメンオーラに溺れ挫かれ人生を憂う(大創業祭2015.8.30)
「アベンジャーズ / エイジ・オブ・ウルトロン」は駄作でも傑作でもない
映画「アントマン」のここが惜しかったからお茶をください角砂糖は結構です!

Viewing all articles
Browse latest Browse all 177

Trending Articles