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Channel: YU@Kの不定期村
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ジェンダー地雷原を裸足で歩き続ける漫画、「ヒメゴト~十九歳の制服~」

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こんにちは、YU@K(@slinky_dog_s11)です。

昨日Twitterのタイムラインで「今なら3巻まで試し読みできる」と回ってきた漫画があった。ついつい暇だったので読み始めたら、これが止まらないのなんの。一気に3冊ひと休みもせず読み終えてしまった。峰浪りょうの「ヒメゴト~十九歳の制服~」という漫画で、タイトルとその副題の字面のとおり“秘め事”と“性”を扱った作品だ。スマホ等の広告では以下のバナーが使われていて一見するとただのエロ漫画のようだけど(確かにこのシーンはあるけども)、中身は全くそんなものではない。(以下、ネタバレなしの作品レビュー)




▲この広告だけの印象を持つと良い意味で火傷する作品。


あらすじをくどくど説明するより読んでもらった方が早いタイプの漫画ではある。が、性描写もありつつ粘性の高い群像劇なので、好みはキッパリ分かれそうな気もする。簡単に言うと3人のキャラクターの主観が入れ替わりつつ進んでいく作品。

一口に群像劇といってもその内情がひと捻りもふた捻りもあり、「幼少期からの男性的な振る舞いを女性らしいものに改める機会を逃したまま大学生にまでなってしまい、独り部屋で高校時代の制服を着て自慰を行い自身の性を確かめる女の子」と「大学でも噂のイケメンだけどその中世的な顔立ちの裏には女装癖があり憧れの女性の格好を執拗に真似る男の子」と「普段はお嬢様を気取る女子大生だが15歳と偽り自身の性を売ることに若さというアイデンティティを覚える女の子」の、交差する性と欲の物語になっている。

“この漫画の感想は男女で大きく変わってくるだろう”という前提でひとりの男としての感想を述べると、非常に興味深くページをめくる手が止まらなかったのが本音だ。女になりたい女と、女になりたい男が、互いの秘密を知ってしまい“女友達”になる。女装男子は売春少女にその実情を知らず憧れているし、男性的な女性は女友達となった女装男子の“(男)性”を否が応でも感じ取っていく。その秘め事の共有に、私も自ずと巻き込まれてしまう。この作品に限らず「互いの秘密を共有する系」の漫画は多々あるが、これの何が面白いかって「読者もその“共有の輪”に入れる」からだ。学校の教室の隅で内緒話をする集団に入れたような、あの薄い共犯関係の感覚。この「ヒメゴト」は、そこに更に秘匿性の高い“性”が絡んでくるから面白い。ヒヤヒヤとヒリヒリが脳の裏側をかすめていくのだ。

また、「男性的な振る舞いを捨てたい女性」「女装する男性」「売春がアイデンティティの女性」、そのどれも私の中には無い要素であり、それをこの漫画は疑似体験させてくれる。ただ物語が進んでいくだけでなく、「なぜそれをしたいのか」「どうしてそう思うのか」が非常に繊細に描かれており、それを突き詰めていくとそこには誰もが普遍的に持っている性衝動や自尊心が息づいている。アウトプットの形は私としてはピンとこないけれども、でも、描写のおかげでその根っこの部分が「何となくわかる」。この、「わかってしまう」感覚が、クセになっていくのだ。漫画や映画で疑似体験とはよく言うけれど、これはその精度が非常に高い。

19歳という子供でも大人でもない年齢において、その心の奥底に溜まった泥のような鬱憤を“性”というカテゴリーで逃げずに正面から捉え続ける。一歩間違えたらそれこそこのご時世なら「炎上」してしまいそうな、そんな多方面にギリギリの描写が垣間見えるからこそ、前述した疑似体験を覚えつつ(自分でも嫌になるほど)野次馬性分が顔を見せてくる。「なんとなくわかる」とキャラクターと肩を並べながら、でも心の中で他人の秘密を覗き見してニヤニヤするような下品な自分もいて、そのアンバランスさと背徳感がそっくりそのまま作品内のテーマにもなっているのだ。

最近思うのは、「面白い」漫画と「“くる”」漫画って、また違うな、と。頭でも感情でもなくて、心のどこかをグッと掴んでくるような「“くる”」タイプの作品は、感想を上手くアウトプットできないままにページをめくる手が止まらなくなる。それは往々にして「作品に誘導された心理状態」が「作品の物語としてのテーマ」とイコールになっている場合が多く、上手い具合に作者に踊らされているのだと後になって気付く。言うまでもなくこの「ヒメゴト」もそのタイプの作品であり、共犯感覚・疑似体験・アンバランス・背徳感、その全てをじわりじわりと覚えながら、ジェンダーという地雷原を裸足でひたひたと歩き続けていく錯覚に浸ることができる。

好みが大きく分かれる漫画であろうことは重ね重ね明言しておくが、「ヒメゴト~十九歳の制服~」、私はとても気に入った作品だ。「惡の華」が好きな人には特にオススメしておきたい。(作品自体は全8巻で完結済み)

※2015年11月27日0時までコミック小学館ブックスにて3巻まで無料配信されています。


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